詩集
著者=萩原 健次郎(はぎわら けんじろう)
装幀=青山 杳
きょうも重たい石が降っている。 夜になっても石畳は、濡れている。 | 4 | |
ずぶ濡れの樹を、 眼に入れる。 | 12 | |
午後一時四五分、私が移動する。 | 20 | |
午後一時四五分、 確実に、私が移動する。 | 26 | |
その町で動いている、動かないでいる すべてのことを見逃すわけにはいかない。 | 32 | |
ここは、海ではない。 それは、紛れもない。 | 38 | |
窓の中に白いタオルが見える。 | 44 | |
自分の爪を切りとって 桐箱に蒐めだして、八年にもなる。 | 50 | |
おそい昼食をとったのは、 大使館を抱きしめた、すぐあとです。 | 56 | |
ほのかな、まるい場所。 明かりのぼやけた方角で 泣いている(怒っている)犬がいる。 | 62 | |
どのように透けていくか。 髪、かたい 爪、かたい 踝、かたい | 68 | |
見えないものだけを束ねて、盗まれている。 | 74 | |
私たちは記憶を喪失しました。 | 82 | |
…… | 91 | |